読書感想文

読んだ本の記録

サマセット・モームにはまっている

「月と六ペンス」で有名なモーム


まさにその本を2年前に読み、私の中のモームのイメージは、その一冊のみから受ける印象によって、「なんだか暗くて難しい話を書く人」となった。


好みドンピシャというわけではなかったから、他の作品に手を伸ばすこともなく、モームのことも忘れかけていたのだが、

最近、モームの傑作選「ジゴロとジゴレット」(新潮文庫)をみつけた。


短編かー。あのモーム、短編も書いてたんだ。

というちょっとした興味で、パラパラとめくり、立ち読みしはじめる。

もう、止まらなかった。


すぐさまその場で買い、家で夢中になって読んだ。

一冊に10足らずの短編が入っているその本を読み終わり、

すぐに別の短編集『モーム短篇選』(上・下)を手に入れて読んだ。

次々読みたくなるほどに、月と六ペンスとは違う魅力が短編にはあった。


それは何か。

3冊の短編集を読み終えた今、3つの魅力を感じている。



ひとつは、短編らしい短編ということ。

短編の特徴として、数十ページという短い間に起承転結がギュッと詰め込まれている展開のはやさ、ストーリーに遠回りのない面白さがあるが、

モームのそれは、特に濃縮されているように私は思う。


例えば、物語の導入部は、正直、読者に不親切だ。

登場人物・舞台・時代などの丁寧な説明はあまりないため、訳もわからずとりあえず読んでいくと、だんだんと示唆された情報から理解できるような仕組みなのである。

いわば「起」を飛ばして「承」から始まるような、初めからトップスピードで物語が進行するような。

短編ならではの臨場感という感じがする。



次に、テーマの面白さがある。

各ストーリーでモームが伝えたいであろうことは、決して壮大なものではなく、人間の面白さ、魅力、ちょっとした哀しさ、ときには世の中への少しの嫌味など、ウィットに富んだものが多い。


それを示す方法も、大きなどんでん返しを準備したり、そうかと思えば、読者が予想できるような流れにしたり、「あっそこで終わるんだ」と思ってしまうような特にオチもない終わり方になったりと、多種多様だ。


各話読み進めるなかで、「この話はどのように展開し、そこにはなんのメッセージが隠されているのだろう」と読み解こうとすることを楽しめる。



最後に、描かれる景色が、とても美しい。

「ジゴロとジゴレット」では地中海を中心としたヨーロッパ、

「短篇選」では東南アジアなどの島々を舞台にした話が多く、

その土地の空気、温度、景色が目の前にあるかのように伝わってくる。


時代は、第二次世界大戦の前後の設定が多いから、どの土地についても「今とは違う景色なんだろうなぁ…」と感慨深い。

異国の地・知らない時代に想いを馳せるのも、楽しみ方の1つだ。



調べると、まだまだモームの短編集があるようで、楽しめる本がいっぱいあるということにホクホクしている。

手当たり次第読んでみたい。